オルゴールの歴史について


〜アンティークオルゴールの足跡と考察〜



 オルゴールは時計と深い縁があります。オルゴールの原点は、時を告げる鐘の音であったことに始まります。 そして、音楽を何時でも好きなときに好きな場所で聴きたい、素晴らしい音楽を一人占めしたいという、夢の 産物であり、オルゴールのたどった道は、現代の音楽流通の形の原点でもあるように思えます。


 14世紀、1300年代にオランダなどでは、カリヨン(カロヨン)と呼ばれた教会などの紐で引っ張って鳴ら す鐘の音で人々に時を知らせていました。これを自動化したものが自動カリヨンとよばれ、オルゴールの始 まりとされていますが、これはかなりの大きさで、バレルという巨大な木製のシリンダーについた突起を重 りの重さで回転させ、てこのような装置をはじいてハンマーで鐘をたたくというものでした。これが、広場 などで時計と共に時間を知らせるようになっていったのです。はじめての自動カリヨンは1381年にベルギー のブリュッセルで、聖ニコラウス・カークの塔に設置されたものだと言われています。  このカリヨンが、後にオルゴールとなって多くの人々に完成された音楽を聞く喜びをもたらす事など、い ったい誰が想像したでしょうか?時計とオルゴールの関わりはこんなところに端を発しています。


 こうして時を告げる音として浸透した自動カリヨンは、15世紀始めにぜんまいが考案されたことで発達し た時計の制作技術と共に、より小さな時計にとり入れられるようになります。初期のオルゴールは単なる時 計のチャイムというおまけ的な機能だったのです。しかし、その過程で、発音するものがベルではその音程 が安定せず、小型化には限界を迎えるようになります。そこで考案されたのが、櫛歯でした。調律性に優れ ていただけでなく、省スペースで高性能ということからシリンダーオルゴール全盛時代への起爆剤として十 分な力を秘めていたのです。


 この櫛歯(ティース)をはじいて音を出す現在のシリンダーオルゴールの原型が創られたのは今から200年 ほど前、フランス革命下の1796年の事、場所はスイス、時計職人アントワーヌ・ファーブルの手によるもので, 実に、自動カリヨンの出現から400年の歳月を隔てた出来事でした。 世界で最初のオルゴールを京都嵐山オルゴール博物館が所蔵しています。必見!  全体 発音部分であるベルに代わる部品として考案されたこの櫛歯とは、はじかれて実際に音を出す鋼鉄製の部品 で櫛のように切れ目を入れた金属のことです。この切れ目の一つ一つが調律された音であって、例えば18音 なら18弦とか、18弁という表現をされることが多く、この音はピアノの鍵盤のようにすべての音域の音がそ ろっているわけではなく、演奏する曲に必要な音域が用意されています。この櫛歯をピンの付いたシリンダー が回転すると共に、はじいて音を出すしくみです。


 1820年ころから、生産が本格化してきますが、初期の櫛歯は一音に対して一枚の鋼鉄片を一つ一つ固定し、 並べたものでした。金属加工技術の発達と共に、一枚で数音の櫛歯を刻めるようになり、やがて現在のオル ゴールと同じように一枚の櫛歯ですべての音を刻み、調律する事ができるようになりました。時はおりしも 市民革命の直後で、当時貴族にしか許されなかった”音楽を楽しむ”という行為が少しずつ、庶民に広まる ようになり、これが、オルゴールの発展を後押しすることになったのです。  とはいえシリンダーオルゴール は職人技によるところが大きく、1800年代後半に大きな会社が工場制手工業化に成功し、辛くも量産に着手 出来るようになるまでは高価で、とても容易に手に入るものではなかったのです。初期のオルゴールはやは り付加価値的な使われ方が主で、懐中時計や宝石箱、オペラグラスやステッキの柄といったものに埋めこま れていたりしましたが、やがてこういった貴族趣向が薄らぎ、オルゴールの音楽的な魅力に人々の関心が集 まり、オルゴール単体で箱型の比較的大きなものが創られるようになって行きます。収録した楽曲が当時の ロマン派のオペラ作品が多かったことからも、オルゴールを所有していた多くが上流階級であったことが伺 えます。


 シリンダーオルゴールは、ぜんまいのある動力部分、シリンダーとこれを固定する共鳴体である発音部分、 そして回転速度を一定に保つ部分で構成されています。これらはムーブメントと呼ばれ、月日を追ってその 音楽性の向上の為に、さまざまな工夫がされるようになり,進化を遂げて行きます。最大の欠点である音量 の小ささをカバーする為に、櫛歯の裏に鉛の重りをつけ、音を豊かに(主に低音)したり、櫛歯の先端部分 にダンバーという部品をつけ余分な振動を押さえたりしました。

また、オルゴールはどの歯も同じ強さでは じく為、音のメリハリがなかったり、長い音が出せませんでしたが、2枚のそれぞれ異なった調整を施した 同じ調律の櫛歯を取り付け、小さい音用、大きい音用と言った具合に使い分けたり、全く同じ櫛歯を2枚取り 付け、同じ音程の歯を2本のシリンダーで交互にはじく事でマンドリンの奏法のように連打することでかろう じて長い音を持続させたりしたのです。 これらはそれぞれピアノフォルテ、マンドリンオルゴールと呼ばれ ています。その他、単調な音色を補う為にベルやシンバル,カスタネット、太鼓などをとりいれたオーケス トラオルゴールと呼ばれる多彩なものや、櫛歯の真上に薄いなまりの板を丸めたチターというロールをとり つけ、振動を押さえることでまるで弦楽器のような繊細な響きを出すものも作られました。こうした進歩で オルゴールは単なる時計のチャイムから、音楽を奏でる楽器として独立した 個 を確立するようになり、 1850年以降、更に進んだ金属加工技術のおかげで櫛歯の先を細長くすることで、隣り合う歯と間隔を空けら れるようになると、シリンダーに8曲を超える複数の演奏情報を記録したオルゴールが登場したり、シリン ダー自体を交換するものも現れたのです。このように楽器として認められ、箱の響きの改良が熟した1860年 以降になると、今度は箱を細かく装飾したり、象牙細工で飾ったりと外側のデザインに手が加えられるよう になります。


 時を告げる音として、時計と深く結びついたオルゴールは、身近な時計に内蔵出来るよう小型化が進むうち、 単なるチャイムから一つの楽器へと進化し、さらに装飾が施されることで芸術品にまで上りつめたのです。


 シリンダーオルゴールの製造国は主にスイスですが、これは時計作りに注がれていたスイスの精密な技術 力がオルゴールを生む原動力となったことに起因しています。ファーブルが発明者ということになってはい ますが、当時スイスもフランスの勢力下にあり、他の時計職人がそれ以前にシリンダーオルゴールを用いた 時計を作っていたという説もいくつかあり、定かではありません。が、後にシリンダーオルゴール製造の 中心的な立場を獲得した事で、結果的に誕生と繁栄の地となったスイスのジュネーブの時計職人であるファ ーブルが必然的にオルゴール生みの親として広く知られることになったのだろうと思われます。


 革命後の1800年代という時代背景の中にあって、シリンダーオルゴールはその製造技術がいかに進もうと、 やはり、貴族の愛用する高級品でした。シリンダーの製造や交換はコストや手間のかかリすぎるものだった のです。こんな中、シリンダーオルゴールの登場から遅れること約100年、1885年にライプツィヒの パウル・ロッホマンによってディスクオルゴールが作られます。ディスク製作の手軽さはまさに画期的な事 でした。円盤型のディスクに突起をつけ演奏情報を記録するもので、これらの過程を工場で量産できる為、 低コストにも大きな需要にも対応でき、更にディスクの交換が容易で、様々な曲を楽しむ事が出来たのです。 ですから、現在流通する音楽ソフトの再生装置(CDプレーヤー)と似た、ディスクを交換して好みの曲を 演奏できるという大衆性とパフォーマンスが備わっていたのです。


 このオルゴールはディスクにつけられた引っ掻き傷のような突起がスターホイールという星型の形をした 部品を回転させ、それが櫛歯をはじくしくみでシリンダーオルゴールにくらべ力が強かった為に、数倍の音 の大きさを実現出来たのでした。これにより、低音域も豊かになり、大きな櫛歯もとりつけられるように なったり、ディスクの材質も始めは厚紙が使われていたものが、鋼鉄製になり、オルゴールが音楽的に完成 された媒体として確立されるようになります。  ディスクオルゴールはドイツを中心に製造され、やがてアメ リカに技術が伝わり盛んに作られるようになりましたが、櫛歯の部分は相変わらずスイスの手にかかった ものが多かったのです。また、何枚ものディスクをあらかじめ格納していて多くの曲から希望のものを聞く ことが出来るオートチェンジャーの考案で民生用から公の場で利用されるといった需要の更なる拡大がオル ゴールの普及に大きく貢献したと言われています。そして更に、ディスクから突起をなくし、穴だけの状態 にすることで回転を滑らかにし、音楽性を向上させたスイスのメルモフレール社製のステラは最高のオルゴ ールとして知られています。  しかし、シリンダーオルゴールが100年ほどの過程があったのに対し、ディスク オルゴールはその直後、蓄音機(エジソン)や円盤レコード(ベルリーナ)が発明され、性能が上がるにつれ、 オルゴールにとって変わるようになり、1900年代に入り,ラジオの普及も手伝って戦争や不況の中でオルゴー ルは急速に火を消して行きました。


 また、一方で自動演奏装置も次々に作られました。巨大なキャビネットにオルガン、ピアノ、バイオリン、 バンジョー、ハーモニカ、打楽器などを格納し、ロールペーパーとふいごで発音するオーケストリオンや、 様々なしかけのついたフェアグランドオルガンなどは圧倒的な音量で楽器と言うよりも目前で大人数が演奏 しているという感覚です。その製品も様々で作られた国のお国柄がよく表れています。自動演奏楽器は大き く分けてシリンダー・ディスクのオルゴール、自動オルガン、自動バイオリン、自動ピアノに分けられます が、自動ピアノなどに関しても技術も成熟し、リプロデューシング・ピアノ等は譜面を再現するのではなく 現在のMIDIレコーディングに近い演奏者の微妙なニュアンスまで再現する記録能力に優れた自動演奏 ピアノとして注目されました。


 オルガンはその起源をたどると紀元前にさかのぼるといわれるほど古いものです。私達が昔学校で使った 足踏みオルガンはその発音体がリードというものですが、このオルガンはパイプオルガンなどのようなパイ プが発音体です。圧縮した空気を発音させたいパイプに送り込んで音を出すのですが、教会などには早くから 設置されていました。これを自動化したものにはバレル式とブック式があります。鍵盤をゆびで押す代わり に、バレルという木製のシリンダーにシリンダーオルゴールと同じような突起をつけ、それを回転させ、 突起がひかかって弁を開くとその音が出ると言う仕組みです。このバレル方式に対して、ブック型と言う タイプがあります。これはシリンダーの変わりに、紙に穴を空けて演奏情報を記録しておき、これを折り たたんで上から順番に再生して行くと穴の空いた部分にさしかかるとその音が出るしくみです。この折り たたみ式のパンチカードタイプは各地のオルゴール館でよく見かけると思います。  これが考案されたのが ディスクオルゴール最盛期の1892年で前者バレル式の古典的なタイプは1700年頃に登場し、オルゴールを 自動演奏装置としてくくるとしたら、オルガンが一番古いことになります。バレル式のストリートオルガン は1800年代中ごろ、高価なシリンダーオルゴール全盛のころに各地の楽師によって盛んに街頭演奏され、 広く庶民に指示され、一つの文化を獲得したという経緯もあります。



 こうした既存楽器を自動演奏化したオルゴールとシリンダーオルゴール、ディスクオルゴールは根本的に 一線を隔しています。それはシリンダーやディスクオルゴール自体が櫛歯をつかった一つの特殊な楽器で あると言うことなのですが、その音楽性を確立した過程は先に述べた通りです。私はこの響きの中にピアノ や弦楽器に引けを取らない音色の豊かさを見出しています。スイスの精密機械技術の生んだシリンダーオ ルゴールは革命後のヨーロッパで衰退する貴族社会と、音楽を獲得した庶民の間で100年間の歴史を作り、 そんな中で大衆性とパフォーマンスを持ったディスクオルゴールが登場し、広く人々の間に音楽と触れあう 楽しみを与えた。  これはこの直後から現在までに通じる音楽流通の形の原型をみることが出来る、とても 興味深い足跡に思えるのです。それまでは、完成された音楽を聞くことは限られた人たちだけのものだった ことを考えると、かつて、時計のチャイムから始まったオルゴールはたくさんの人々に音楽を聞く楽しみを 教えてくれた最初の夢先案内人であり、音楽を普及させた影の立役者であるといっても過言ではない・・と 思います。



 オルゴールの名は日本独自の呼び名で、語源はオルゲル(Orgel ドイツ語でオルガンの意)から来たもの といわれていますが、これは安土桃山時代にオランダ人によって持ちこまれた楽器としてのオルガンか、 その後の江戸時代にやはりオランダ人がもたらした手回しオルガンのこと(どちらにしても現在オルゴール と呼ばれているものとは別物)をオルゲルと紹介され、それ以来めずらしい音の出る不思議な箱→オルゲル と呼び、以後になまってオルゴルとなったということのようです。おそらく、この江戸時代に入ったほうは 「自鳴琴」と呼ばれた、バレル式のストリートオルガンだったと思われます。  1750年(寛延3年)の蘭和辞典 (紅毛訳問答)にヲルゴルナという言葉が登場していますが、これがどんなものだったのか、詳しい説明は ありません。(1551年に周防の大内義隆にフランシスコ・ザビエルから献上されたという自動演奏装置のよう なものは”自鳴鐘”と呼ばれた鐘のチャイム付きの時計であるという見方が正しいようです。ちなみに自鳴 鐘や自鳴琴とはチャイム付きの時計に対して中国皇帝の手に渡った際に中国でつけられた名前です) そして1852年になって、鎖国下にあって唯一接触のあったオランダ人が江戸深川で見世物として初めて、 オルゴルを公開し,話題になったという記録があり、この事でこの名が一気に広まったと考えられます。 江戸末期になって入ってきたシリンダーオルゴールのオルゴルという呼び名はそれよりずっと以前に持ちこ まれたオルガンに付けられた名前だったわけです。  また、文久年間(1861−1864)に時計職人だった 小林伝次郎がシリンダーオルゴールを研究し、日本で初めて日本民謡のシリンダーオルゴールを作ったとい う記録もあります。しかし、これはオルゴール部分は欧州製の既製のものを自作の時計と組合わせたものだ という説やオルガネッタのようなものであったという説等があり、その実物の記録がないために様々な憶測 がされています。この他に1830年の嬉遊笑覧の文中にパイプオルガンをオルゴルとして説明したものがあっ たり、1853年歌川芳藤の描いた浮世絵にはストリートオルガンが描かれていたりしますが、1860年の横浜開 港見聞誌には明確なシリンダーオルゴールの絵がヲルゲルとして紹介されています。    こうした記録の上から見ると、1900年を過ぎた辺りから、シリンダーオルゴールに対しオルゴールという 言葉が明確に使われ出したことが伺えます。このようにオルゴルは音の出る仕掛けをもつ不思議なものの総称 でしたが、明治、大正時代あたりから次第にシリンダー/ディスクオルゴールのように櫛歯(ティース)を はじいて発音するものをオルゴールと呼ぶようになったようです。世界的な呼び名はやはりMusicBoxという ことになるでしょう。


 それではここまでお話したところでオルゴールになじみの深いオルガンについていくつか、長崎ハウス テンボスで実際にオルガンの製造・修理をされておられた松本 尚登 氏にお話を伺うことが出来ました ので少し詳しくご紹介しましょう。

オルガンの語源について教えていただけますか?

 

紀元前400年頃、ギリシャ人とローマ人によって使われていた言葉に、オルガヌム (Organum)やオルガノン(Organon)があり、これは「機械的に風を送る機具」、 「弦が沢山ある機具」という管楽器や弦楽器など全ての楽器(音を出す機具)を含め た言葉として広義に使われていたようです。 古代ギリシャには、現在私たちが認識しているオルガンの原形が存在していたことは 明らかなようですが、その「風を送り音を鳴らす機具」が実際オルガヌムやオルガノ ンと呼ばれていたのかは様々な説があり断定できていません。 しかしながら、古代ギリシャに「オルガン」の語源があることには間違いないようで す。

バレルタイプの自動オルガンの起源はいつ頃なのでしょう?

 

自動演奏のオルガンは人間が演奏するオルガンの後に派生したものと誤解されがちで すが、実際には同時期に発展してきたようです。 そして、水力、分銅、ゼンマイ、手廻し、電気モーターと動力の移り変わりはあった にせよ、楽譜の記録方法はその発祥から19世紀末までの長い間シリンダー(バレル) が用いられてきました。 バレルオルガンに関する最初の文献は、紀元前135年頃アレクサンドリアの数学者で 発明家でもあったステシビオスの著作の中に、シリンダーで操作する自動演奏のオル ガンが描写されています。このオルガンは聖書にも登場し、旧約聖書の創世記4:21、 ヨブ30:31、詩編150:4に言及がみられます。

 

安土桃山時代に日本に始めて渡ったとされるオルガンを推測していただけますか?

 

中世の中頃から、中央ヨーロッパは自動機械、時計、オルガン、自動楽器の中心とし て栄え、ボヘミアを「ヨーロッパの芸術学院」と呼んでいるほどでした。 ドイツのブラックフォレスト地方は多くの優れた時計職人と自動オルガン職人が住ん でいた地域として世界的に有名であり、アウグスブルグには1500年頃、時計仕掛けで 自動演奏するハープシコードを製作したバイダーマン一族をはじめ多くの職人がいました。 また、1359年から1780年にかけて、同じくドイツのザクセン地方にも200人以上の オルガン職人が住んでおり、 この時期には自動オルガン製作のためのドイツ人学校が創立され、この頃から、より 低風圧で演奏されるまろやかで豊かな音色のオルガン製造へと移行してゆきます。 この時代に製作されていた自動オルガンとはどんなものだったのかを知ることが、安 土桃山時代のオルガンを推測する手がかりになると思います。

 室内外の手廻しオルガンや教会用のバレルオルガンは、1700年に入らないと登場して きませんので、それ以外のオルガンということになります。 1600年から1700年にかけてオルガンを組み込んだ時計(オルガン時計)が一般的になっ ていたことから、それ以前にも王公貴族の要請などで製作されていたことは推測でき ます。実際16世紀末、女王エリザベス一世はトルコのサルタンに贈るために、分銅で 動くオルガン時計の製作を近東との貿易で富を得ていたレヴァント株式会社に依頼し、 オルガン製作者トマス・ダラムによって6時間演奏し続けられる高さ12.5 ft(3.8m) の特別なオルガン時計を製作しました。 当時はオルガン単体ではなく、時計や人形、家具などの調度品と組み合わせられて製 作されたものが多かったようです。

 このようなことから、安土桃山時代のオルガンが自動演奏のオルガンであるならば、 オルガン単体楽器ではなく時計や調度品などに組み込まれたものだろうと推測できます。

そうですか。 では、1800年代に楽師によって盛んに演奏され、庶民に音楽 が広まったとされるストリートオルガンはどんなものだったのでしょう?

 

1800年代はバレル式ストリートオルガンの時代でした。イタリアがその起源ではない かとされているストリートオルガンは、イタリアを襲った大恐慌を境にフランスやド イツにその製作拠点を移します。(フランスやドイツのオルガン製造会社にイタリア 名が多いのはこのためです)そして、主にフランスやドイツで 製造されたストリートオルガンは、19世紀中頃まではヨー ロッパ各地を旅して周るストリートミュージシャン(辻音楽師)や、物乞いの人たち、 戦争などで体が不自由になった人などが主に使っていましたが、各種フェアでの需要 が増すにつれ徐々に興行師の顧客へと移っていきます。 バレルシステムのストリートオルガンは大別して3種類あります。

 1、ベリーオルガン・・・お腹(ベリー)の前に抱えて演奏するオルガン。(1806年 〜) 2、フットオルガン・・・重たいオルガンを首に抱え演奏するベリーオルガンはかな りの重労働でしたので、これを解消するため考えだされたのがフットオルガン(別名、 偽足オルガン)です。これは重いオルガンを支えるため底に一本の棒を置いたもので した。しかしこれはあまり効果的な解決法にはなりませんでした. 3、手押し車に乗せたオルガン(これには正式な名称が付いていません)・・・オル ガンのサイズに合った四輪の手押し車に乗せたことで、移動や演奏が格段に楽になり、 問題は解決しました.

ベリーオルガンとフットオルガンのサイズは55x35x40cm程でしたが、重さの問題がな くなった手押し車のオルガンのサイズは70x45x70cm程でした.

 19世紀中頃は手押し車にのせたオルガンが主流の時代でしたので、このオルガンが使 われていたといって良いと思います.ただ、バレル式ストリートオルガンは演奏者が 個人で購入していたものなので、貧しいオルガンライダー(オルガンの演奏者)は古 いスタイルのオルガンを使い続けていたのも事実です.

ストリートオルガンの周りに人々が集う様子が 連想されますね。

ストリートオルガンは演奏しても聴いても楽しいものですが、ストリートオルガンの 庶民の中で使われ発展してきた特異な歴史を知ると、下手な小説よりも面白く一層興 味が湧くと思います。

バレル式からパンチカードやロールペーパーなどのブック 式になってからの1900年以降のオルガンについてもいくつか種類があるようですが?

ミュージカルボックスは参考図書が洋書、和書ありますので、正しく認識されて いますが、自動演奏のオルガンについては参考書が極めて少なく尚且つ、その機 構とそれぞれの音色についてある程度把握していないとオルガン分類について理 解できないという難しさをもっています。したがって、オルゴールの専門家であ っても単にオルガンの大小だけで分類してしまうことがよくあります。

 

なるほど、大きいものをフェアオルガン、小さなものをストリートオルガンと いう簡単な区別では分けられないのですね。

そう、例えばブック式自動演奏のオルガンの分類は次の通りです。(室内用オルガンは含まれません)

1、フェアオルガン 2、ダンスオルガン 3、ストリートオルガン 4、コンサートオルガン

1、フェアオルガン:その名の通り様々なフェアで演奏するためのオルガン。 ヴァイオリンパイプを主音に使用。リードパイプを多様し、華やかな音色が特 徴。 小型のフェアオルガンは回転木馬や移動遊園地などで使われ、大型のものは博覧 会や定期市、様々なアトラクションなどで使用された。オルガンの正面には彫像 が取り付けられている。 主生産国:フランスとドイツ オルガンの規模:35keyから120key 程

2、ダンスオルガン:ダンスホールで使われたオルガン。 ホールの壁面を覆うような正面パネル(ファサード)を持っている。 踊りやすいようにリズムを刻むパーカッション類とベースが特徴。 彫像は付かない。 主生産国:ベルギー オルガンの規模:75keyから120key程

3、ストリートオルガン:1903年オランダに登場(ブック式のストリートオルガ ン)初期のものはフランス製、のちにベルギー製になり時代と共にオランダで改 良される。主音にブルドンパイプの柔らかい素朴な音色を持つ。 彫像が付く。 オルガンの規模:56keyから90key程

4、コンサートオルガン:全盛期が去り、使われなくなったオルガン(フェア、 ダンス、ストリート)を公的機関や市民団体の支援により修復保存され、再び蘇 ったオルガンのこと。(コンサートオルガンは最盛期には存在せず、1950年以降 に分類されたオルガンです)

なるほど、奥の深いものですね。

オルガンのことを多く知ることで、より多くのファンや興味を持たれる方が増える きっかけになれば幸いです。

たいへん興味深いお話、どうもありがとうございました。

お話 松本 尚登 氏





 

いわゆる自動機械(オートマータ)「Automata」はギリシャ時代からの人間の夢であり、人々は その具体化に古くから取り組み、これをもう一つの夢である”身近に美しい音楽を置きたい”と言う願望と 結びつけた結果、様々な自動演奏装置へと発展し、あるものはからくり人形と融合し自動人形(オートマータ ドール)になったり、ピアノやオルガンなどの確立した楽器の自動演奏がなされたり、この二つの夢はまさに 結実したといえます。そしてまた、そうした自動演奏装置の一端であるオルゴールの起源となったカリヨンを 見ても大変興味深い事がわかるのです。

 昔学校で毎日聞いたチャイム。これはカリヨンなのでしょうか?実は、カリヨンとは音楽的にメロディー を奏でられる調律された複数のベルを一組として、演奏できるものをいいます。ですから、学校のチャイム とも教会の短音の鐘(スイングベル)とも違うのです。ウエストミンスターに代表されるチャイムは4音程 の鐘があるフレーズを繰り返す中で特定のパターンを作り出すものの事で、音楽的にメロディを奏でること とは違います。カリヨンは大きな鍵盤を持つ楽器であるということなのです。  初めてカリヨンの演奏がされ たのは1480年のことで、16世紀のオランダ等では大変人気があり、演奏家が週に数回コンサートを開いて、 賛美歌や民謡などを演奏したと言います。このカリヨンという言葉の起源は初期のカリヨンが時報として 機能していたことのなごりで、始め鐘一つだったものが、四つ一組の鐘で現在で言う「ピ,ピ,ピ,ポーン」 の役割を果たすようになり、ラテン語で4を表すクァテルニオ(Qaternio)が語源となったというのです。  カリヨンにも自動演奏化の波が訪れ、それは後のシリンダーオルゴールの仕組みと全く同じ原理で、バレル (ドラム)という巨大なシリンダーが演奏者に代わりチャイミングをするというものでした。また、公共の 場での楽器としても人気を博しましたが、演奏家達にとってはオルガン等に比べると音楽的表現に魅力を欠く のことは否めず、奇しくもその発音体がベルから櫛歯へ移行し、オルゴールとなるきっかけとなったのと同 じく調律の不安定さが要因の一つとなり、更に至る所に設置され、カリヨン自体がありふれたものになると、 人々の関心も薄れ、衰退して行くことになったのです。

 あまり知られていないことですが、日本には現在大小数百の様々なカリヨンが設置されています。オルゴ ールと同様、日本はカリヨンの多い国でもあるのです。東京で言えば、新宿小田急ハルクのからくり時計や 西新宿の中央公園に設置されたものがそうです。みなさんのお住まいにもきっとどこかにあるはずです。 そして、きょうも鐘の音がメロディを奏でているはずです。そのメロディの音色は、はるか古代からのから くりと、14世紀の鐘の音が遠く海を渡って日出ずる国で開花した人々の夢と希望であると考えると、いっそう 胸に響く事でしょう。最近クリスマスツリーの飾りとして、複数のベルが一組となった小さな小さなカリヨン がデパートなどのディスプレイなどでクリスマスソングを奏でています。MIDI音源の楽器の名前にも グロッケンシュピール(ドイツ語でカリヨン)がちゃんと含まれています。オルゴールに続き、その始まり とされるカリヨンまで日本人の心を強く捉えています。

 日本のオルゴールは、昭和10年頃からその部品からの製造に関心が持たれるようになりましたが、欧州の 技術を容易には取得できず、ほとんど独自に研究・開発された技術によって成り立っています。そして、 戦前、戦後とその音色を愛した方々の、一から始めた大変な努力の結晶として大きく花開き、かつての欧州 からいまや日本はオルゴールの中心的な立場にあります。現在、アンティークオルゴールの根強い人気に支 えられて、日本は世界の9割の生産高をほこり、世界一のオルゴール生産国となっています。はるか昔から、 人々が自動演奏にかけた夢と、確かな精密機械技術が作り上げたオルゴールという楽器の歴史はなんとなく、 人々が音楽に託したロマンと現代テクノロジーの融合、そして、音楽と社会の関わり方を見せてくれている ように思えてなりません。

 


「オルゴールとは手動または自動的に音楽を演奏する機械で、櫛歯に似た特殊鋼製の発音体を 回転胴に植え付けられているピンで弾き、

自動的にメロディを発音するもの」 (社団法人日本オルゴール協会 定義による)


 

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